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「死」とは

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  • 2020年5月17日
  • 読了時間: 4分

本ブログへの訪問、ありがとうございます。

皆様いかがお過ごしだろうか。

非常事態宣言が一部解除された。

とはいえ、すぐに今までの生活に戻れると考えるのは安直であろう。

ここまで団結して自粛を行ってきたのだから、それが無駄にならないよう、引き続き事態を注視していかなければならない。

また、「コロナ後の生活」についての言説が目立つようになってきた。人類は今後コロナとの共存を受け入れなければならないのだろうか。

今週の一冊 伊坂幸太郎「死神の浮力」


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本ブログ、初の小説のご紹介となる。

(作品の展開について一部言及があるので、ご注意いただきたい)

筆者が、伊坂に出会ったのは中学生の頃かと記憶している。

「魔王」という作品を手に取ったのだが、巧みな伏線回収と、次の場面が気になってしまう息を尽かせぬ展開に、大興奮したことを覚えている。

そこから、いくつかの伊坂作品を読み、すっかり虜になった。

筆者的名作の定義のひとつに「作品の導入が面白い」があるが、伊坂作品はどれも当てはまる。数ページ読んだだけで、作品の世界に没入してしまう不思議な引力があるのだ。

伊坂は作品のクオリティが高いうえに、ハイペースで作品が発表される。

先日、書店に訪れた際に、伊坂の棚を覗くと読んだことがない作品が多くあることを発見し、自粛期間のお供に購入したのが、今回ご紹介する「死神の浮力」である。

選んだ理由は、先述の伊坂作品への信頼があったのと、500P以上あったのでゆっくり楽しめると考えたからだ。

結果的に前者は守られ、後者は守られなかった。

あまりの面白さに数時間で読み終えてしまい、伊坂への信頼を更に深めることになったのである。

本作のあらすじは以下である。

娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。

そこへ人間の死の可否を判定する「死神」の千葉がやってきた。

千葉は夫妻と共に本城を追うが。。

伊坂作品の特徴として、いわゆる我々が生きる現実世界には存在しないものが、キーマンとなる。本作では「死神」だが、過去にも「特殊能力を持つ学生」、「会話ができるカカシ」、「法律で守られる殺し屋」等、フィクションならではのキャラクターが登場する。

ともすれば、「現実離れしている」と思われかねないが、彼らがその他の一般人(=現実世界に存在しうる読者側の立場)と絶妙に交わり、物語を想像できない方向に進めていくのである。

主人公の山野辺は、何度も「死」について考える。

娘の死、父の死、自分自身の死。

一方、千葉の職業は死神であり、彼にとって「死」はあくまで業務の一環にすぎない。

娘の死を受け入れられず時に感情的になる山野辺と、常に死を冷静に処理する千葉の、かみ合っていないようで絶妙にかみ合っている会話はきっと多くの発見があるだろう。

作品内で、山野辺と千葉が拷問を受け「目をつぶされ、四肢が満足に機能しない」状況に追い込まれるシーンがある。読者の多くは、そのような拷問を受ければ「死」と同様の苦痛を想像するだろう。

しかし、千葉は、それは「死」ではないと答える。

「死」とはあくまで「死」であり、それ以外は「死」ではないのだ。

日常生活では出会えない斬新な知見を、フィクションならではの設定が説得力を持たせている。

また、伊坂作品は、特定のミュージシャンの楽曲がモチーフになることが少なくない。

作品中で紹介される楽曲の歌詞や製作背景を読み解くと、別の楽しみ方もできるだろう。

千葉も例にもれず音楽を好み、いくつかの楽曲が印象的に挿入される。

千葉が先述の拷問を受けるシーンで「耳をきりおとされてもいいか」と質問を受け、初めて感情をあらわにする。

千葉にとって、聴力を奪われることは音楽が聴けなくなることを意味するが、自分の大切なものを奪われてしまったら、それは死神にとっても「死」になるのだろうか。

そして、それは娘を失った山野辺と重なる状況ともいえるが、千葉の目には山野辺はどのように映っているのだろうか。

考察は尽きないが、この作品を通じて、「死」とは何か、ぜひ一度考えてみるのもよいのではないだろうか。

ちなみに千葉が現れる時、いつも「雨」が降る。

これから訪れる梅雨の時期に、ご自宅でゆっくり読んで頂くと、より作品に浸れるかもしれない。

目の前の現実にうんざりしてしまったときに、フィクションの世界に飛び込むことは推奨されるべきである。

ウイルスの届かないフィクションの世界で、無防備に何も考えず羽を伸ばした週末であった。

皆様の週末が充実しますように。

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